「論点整理」にむけた意見書を提出 ~ 日教組
現在、中教審(中央教育審議会)教育課程企画特別部会では、「柔軟な教育課程」、「学習指導要領の構造化・柔軟な教育課程を契機とした教科書等の改善」等が論議されています。
日教組は2025年6月25日、同特別部会で論議されている「論点整理」について意見書を提出しました。
意見書で日教組は、①年間授業時数の削減、②学習指導要領の内容精選、③特別活動の時間をゆたかにすること、④学習指導要領から部活動の記載を削除すること、⑤2003年通知の見直し、⑥特別部会においてヒアリングの機会を設けることの6点をあげ、今後の論議に反映するよう要請しました。
意見書の内容は以下のとおりです。
教育課程企画特別部会「論点整理」にむけた意見書
文科省におかれましては、日頃から子ども・学校をとりまく様々な課題の解決にむけご尽力されていることに敬意を表します。
さて中教審教育課程部会教育課程企画特別部会(以下、特別部会)において、現在、授業時間の弾力的運用や、柔軟な教育課程の編成、小学校の総合学習で情報領域を新設すること等、次期学習指導要領改訂にむけた方向性が論議をされています。また、国会で論議された「給特法改正案」では、一人当たりの担当する授業時数を削減することや、教育課程の編成の在り方について検討すること、部活動の地域における展開等を円滑にすすめること等が附則に記載されました。
学校現場では、いじめ・虐待・不登校の数は過去最多を続けており、特に小・中学校における不登校の子どもの数は、11年連続で増加し続けています。また、外国につながる子どもたちの増加等、多様化する子どもへの対応が求められ、課題は複雑化しています。教職員については、長時間労働が是正されず、病気休職者や離職者の増加に歯止めがかかりません。また、採用試験の倍率低下、代替教員が配置できない慢性的な教員不足等、子どもの学習権の保障も脅かされています。
次期学習指導要領の改訂に際しては、こうした子どもの実態や学校現場の状況を鑑み、「カリキュラム・オーバーロード」の解消、年間総授業時数の削減、学習指導要領の内容精選等が喫緊の課題です。さらに、教職員が子どもと向き合う時間や、教材研究・授業準備の時間の確保、教職員定数改善をはじめとした教育条件整備も急務となります。
つきましては、次期学習指導要領の改訂において、特に検討を要する点についてとりまとめましたので、今後の論議に反映して頂くようよろしくお願いします。
1 年間授業時数を削減すること
日教組は、小学校4~6年生では毎日5時間(週25時間)、中学校1~3年生では週2日6時間(週27時間)を提案します。また、合わせて教員の持ち授業コマ数の上限規制が必要です。「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(2024年12月25日諮問)では、「年間の標準総授業時数を現在以上に増加させないことを前提」としていますが、現場からは「増やさない」ではなく削減の声が多数上がっています。
以上のことから、「カリキュラム・オーバーロード」の解消と、年間総授業時数を実質的に削減できる方策の実現を強く要望します。
その前提として、改訂を待たずして、昨年度に引き続き、標準を大幅に上回る1086単位時間以上の改善状況等を本年度も調査し改善を促すこと、その際、標準授業時数が少ない小学校1~3年についても改善することを要望します。
2 学習指導要領の内容精選をすること
この間の学習指導要領の改訂の度に、内容が難しくなり、教科書の頁数も増え(学校教育法施行規則及び教科書目録から文科省が算出)ていることが、子どもたちに与える影響を懸念します。学校は授業時数確保が最優先され、連日子どもと教職員は、時間的にも精神的にも余裕がもてない中で学校生活を送る結果となっています。
現在、特別部会においては、小学校の総合学習で情報領域を新設することが論議されていますが、スクラップ&ビルドの考えから、何かを足すなら何かを削る考えも示すべきです。教育総研が行った現場教職員へのアンケート調査(6月)からは、現在の総合に「上乗せ」することについては7割を超す反対、「新教科」については8割を超える教員が反対する結果が明らかになっています。すでに学校では教員が担当する持ち時間は限界に達しており、教材研究や授業準備の時間の確保すら困難となっています。いわゆる教職員の献身性に依存する体制が改善されておらず、時間外勤務を行わざるを得ない状況となっています。22年文科省勤務実態調査では、小学校の勤務時間は授業と授業準備だけで6時間30分程度となっており、その他、会議や研修、校務分掌業務など必要な業務を行うことで超勤が常態化しています。子どもたちの主体的な学びをすすめるためには、教職員には教材研究や授業準備の時間、子どもには、授業時間内でのじっくり考える時間や学び合う時間が必要です。
以上のことから、総合的な勤務環境整備をすすめることを前提としつつ、学習指導要領の内容の精選と年間総授業時数の削減はセットで行われるべきと考えます。また、合わせて教科書の内容や分量も精選する必要があります。
3 特別活動の時間をゆたかにすること
現行の学習指導要領では、特別活動が35時間割り当てられています。一方学校では、学級活動(おおむね週に1時間)のほか、児童会・生徒会活動、クラブ活動、学校行事など35時間よりもはるかに多い特別活動の授業を実施しています。標準授業時数の中で割り当てられている特別活動の授業時数と、学習指導要領で求める特別活動の指導内容及び特別活動の目標を実現するために実施する授業時数には、大きな乖離があります。現場実態を踏まえ、現行の特別活動35時間を70時間(1989年学習指導要領改訂)に戻し、「多様な体験」の時間を確保するべきです。
4 学習指導要領から部活動の記載を削除すること
「部活動改革に伴う学習指導要領解説の一部改訂について(通知)」(2024年12月25日)において、部活動について「教育課程外の活動であり、その設置・運営は法令上の義務として実施されるものではないことから学校の判断により実施しないこともある」「全ての生徒が一律に加入しなければならないものではない」と総則編、保健体育編に明記され、部活動と地域クラブ活動について項をあげて記載されました。現在休日の部活動が地域クラブ活動へ移行している状況を鑑み、子どもにとって「学校と地域クラブ活動の運営団体・実施主体との間で」「学校を含めた地域全体で生徒の望ましい成長を保障することが必要である」ことは十分理解できます。「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議 最終とりまとめ」(以下最終とりまとめ)では、26年度から28年度の「改革実行期間(前期)」において休日の地域展開に確実に着手し、31年度までには平日においても展開していくとしていることから、地域の社会教育主体の活動に対して学校が連携に加わる方向性に転換されるべきです。
また、部活動の指導等における教職員の負担は各種調査からも明らかになっています。しかし、「部活動は学校で行うもの」という認識は根強く残っており、地域移行が難航している地域も多く残っています。
子どもの自主的・自発的な参加による部活動は「教育課程外の活動」と解説に明記されたことから、部活動は休日・平日ともに段階的に地域移行し、学校から切り離されるべきです。そのためにも部活動の記載は学習指導要領から削除し、子どもたちの活動を地域で支えるものとするべきです。
5 標準時数を「最低基準」とした2003 年通知の見直しをすすめること
「下回ってもダメ(標準時数を「最低基準」とした2003年文科省通知)、上回りすぎてもダメ(2023年文科省通知)と言われても」(朝日新聞 2025年3月31日)という意見にあるように、学校現場では、年間総授業時数を上回る編成をせざるを得ない実態があります。このような現場実態の改善のためにも、中教審での標準授業時数の弾力化の論議をすすめ、最低基準性を緩和し、真に弾力性のある年間授業時数を運用できるようにすること、また、学校裁量を拡充させ、子どもたちの学びの保障ができるようにするべきです。
6 教育課程企画特別部会におけるヒアリングの機会を設けること
次期学習指導要領の改訂にあたり、文科省は子どもの意見を聴取していますが、現場の教職員の声も含めてヒアリングをすることは重要と考えます。今回の特別部会の論議に関しても、ヒアリングの機会を設けることを要望します。